英語の発音指導というと、多くの日本の英語教員はまず個々の音の作り方、いわゆる分節音の指導を思い浮かべるのではないでしょうか。RとLの違い、THの発音、母音の長短。しかし実際に外国人の英語を聞いていて「なんだか不自然だ」「聞き取りにくい」と感じるとき、その原因は単音の間違いよりも、リズムやアクセント、間の取り方といった韻律(プロソディ)にあることが少なくありません。私が以前、海外からの留学生の発表練習に付き合ったとき、単語ひとつひとつの発音は決して悪くないのに、文全体を聞くと妙にのっぺりして聞き取りにくいという経験をしたことがあります。今回取り上げるKallio, Suni, and Šimkoの論文は、まさにこの「なんとなく不自然」の正体を、音響分析という科学的な手法で解き明かそうとする野心的な研究です。
この論文は”Fluency-related Temporal Features and Syllable Prominence as Prosodic Proficiency Predictors for Learners of English with Different Language Backgrounds”というタイトルで、2022年に Language and Speech 誌(2021年にオンライン先行公開)に掲載されました。著者のHeini Kallio氏、Antti Suni氏、Juraj Šimko氏はいずれもフィンランドのヘルシンキ大学に所属する研究者です。Kallio氏はこれまでにも継続的にL2プロソディの評価手法を研究してきており、本論文は彼女らが2017年、2018年、2020年と積み重ねてきた一連の研究(特にフィンランド・スウェーデン語話者を対象とした先行研究)の延長線上に位置づけられます。つまり単発の研究ではなく、研究プログラムとして着実に知見を積み上げてきた成果のひとつなのです。
なぜこの研究が必要だったのか―先行研究の穴を埋める
英語のようなストレスアクセント言語では、単語の中のある音節が他より強く、長く、高く発音されることで際立ちます。これが「卓立性(プロミネンス)」と呼ばれる現象です。従来のL2発音研究では、Anderson-Hsieh, Johnson, and Koehler(1992)やMunro and Derwing(1999)などが示してきたように、分節音の誤りよりも韻律の欠陥のほうが、聞き手にとっての理解しやすさやコミュニケーションの成立に、より深刻な影響を与えることが指摘されてきました。しかし著者たちが指摘するように、これまでの研究の大部分は「流暢さ」に関する時間的な特徴、つまり話す速さやポーズの取り方にばかり注目しており、言語ごとに異なる音節卓立性の実現のされ方についてはほとんど検討されてこなかったのです。
さらにもうひとつの重要な指摘があります。従来の比較研究の多くは、学習者の母語を一つに限定するか、あるいは母語の異なる学習者のデータをひとまとめにして扱うか、もしくは母語が全く異なる(たとえば中国語と英語のように)言語同士を比較するものがほとんどでした。つまり、比較的近い言語どうしの微妙な違いを検討した研究はほとんど存在しなかったのです。この論文が独自性を持つのは、チェコ語・スロバキア語・ハンガリー語・ポーランド語という、地理的に近接しながらも言語系統が微妙に異なる(スラブ系とウラル系)四つの言語背景を持つ学習者を対象に、きめ細かい比較を試みた点にあります。
