大学の授業を英語でやれと言われたら、あなたならどうしますか。専門は数学でも生物学でも経済学でもよいのですが、その内容を、あなたの母語ではなく英語で教えろと言われる。しかも「英語の教え方」ではなく、「英語を使って専門科目を教えるやり方」については、誰からも体系的に教わったことがない。そんな状況に置かれている大学教員が、世界中に、そして日本にも数えきれないほどいます。この論文は、その教員たちが実際にどんな研修を受けているのか、あるいは受けていないのかを、115本の先行研究を渉猟して丹念に洗い出した労作です。

著者はThi Kim Anh Dang、Gary Bonar、Jiazhou Yaoの3名で、いずれもオーストラリアのモナシュ大学教育学部に所属しています。Dangは高等教育における英語使用や国際化の研究を長く手がけてきた研究者で、本論文でも研究代表者としてプロジェクト全体を牽引しています。2023年に Teaching in Higher Education 誌に掲載されたこの論文は、EMI―English Medium Instruction、つまり英語を母語としない国や地域で英語を用いて専門科目を教える方式―に従事する教員の「専門学習」(Professional Learning、略してPL)を対象にしたシステマティックレビューです。

なぜ今、この研究が必要だったのか

まず押さえておきたいのは、EMIという現象がどれほど急速に広がっているかです。論文によれば、ヨーロッパの高等教育機関におけるEMIプログラムは2002年から2014年のわずか12年で700件から8000件超へと10倍以上に増えました。中国でも2018年時点で49万人の留学生を受け入れており、その数は10年前の倍です。これは大学のグローバル化戦略、留学生獲得競争、そして英語が事実上の国際共通語として機能している現実が絡み合って生まれた潮流です。日本でも「国際化」を掲げる大学が英語開講科目を増やし、スーパーグローバル大学構想などの政策を背景にEMI科目が次々と新設されてきました。ところが、その教育の質を支えるはずの教員研修は、著者たちの言葉を借りれば「明らかに整合性を欠いている」状態にあります。

先行研究の流れを振り返ると、EMIに関する研究自体は2010年代以降急増しており、Macaro(2018)による大部な概説書 English Medium Instruction や、O’Dowd(2018)のヨーロッパ諸大学における教員認証制度の調査などが積み重ねられてきました。しかし、それらの多くは個別事例の記述にとどまり、「EMI教員はどんな課題に直面し、どんな支援を受けているのか」を世界規模で俯瞰した研究はほとんど存在しませんでした。著者たちは「私たちの知る限り、これはEMI教員の専門学習に焦点を当てた初めてのシステマティックレビューである」と述べており、この空白を埋めることが本研究の存在意義になっています。