静的な「言語知識」の習得から、動的・多層的な「学習主体」の育成へ

英語教育の世界は今、静かな、しかし根深いパラダイムの転換期を迎えています。

かつて英語を「学ぶ」とは、文法規則を記憶し、語彙を蓄え、正確な形式を身につけることを意味していました。教室の主役は教師であり、知識は教師から学習者へと一方向に流れるものとされていました。テストは「何を知っているか」を問い、正答の数が習熟度を表すと信じられていました。

しかし本書に収めた論文群が示すのは、そうした理解の根本的な問い直しです。

AIを活用した自己調整学習の実証研究は、ツールを与えるだけでは不十分であることを明らかにしました。学習者が自ら目標を設定し、フィードバックを批判的に評価し、自己の学習プロセスを振り返ることで初めて、技術は意味を持ちます。トランスランゲージング研究は、母語を排除することが学習を妨げることを示し、学習者が持つすべての言語的・認知的リソースを動員することの価値を問い直しました。Krashenの理論を再検証した文献レビューは、情意的要因が学業成績の変動の九割近くを説明しうるという驚くべき事実を伝えています。用法基盤アプローチによる言語転移研究は、言語の習得が規則の内面化ではなく、無数の使用経験の蓄積と認知的再編成であることを示しました。流暢性と自動化に関する二つの大規模レビューは、「知っている」ことと「使える」ことの間にある深い溝と、その溝を埋めるための条件を丁寧に記述しています。発音指導におけるリキャスト研究は、「さりげない訂正」が学習者の心理的安全を守りながら気づきを促しうることを、精密な音響分析をもって立証しました。そしてAI研究二十八年間の書誌計量分析は、研究の関心がチューター型AIから対話型AIへ、個別のスキル習得から学習者の自律性の涵養へと、確実に軸足を移してきた歴史を俯瞰してみせました。

これらの論文が異口同音に語っているのは、一つのことです。言語能力とは静的な知識の総量ではなく、認知・情意・社会的相互作用という複数の層が絡み合いながら絶えず更新されていく、動的なプロセスの産物です。したがって英語教育の目標もまた、正確な知識を持つ学習者の育成から、自律的に考え、自己を調整し、他者と意味を構築し、生涯にわたって学び続けることのできる「学習主体」の育成へと問い直されなければなりません。

本書は、そうした問い直しの最前線にある海外の研究成果を、日本の英語教育に携わる教師・研究者・学生に届けることを目的として編まれました。各論文の解説においては、研究の背景・デザイン・結果を丁寧に読み解くとともに、日本の教育現場への示唆と、方法論上の限界や課題についても率直に論じることを心がけました。理論と実践の橋渡しをすることが、本書の一貫した姿勢です。

AI、トランスランゲージング、自動化、流暢性、言語転移、発音指導——取り上げたテーマは一見多様に見えます。しかし読み進めるうちに、読者はそれらが一つの問いを囲む、多角形の輪郭を描いていることに気づかれるでしょう。その問いとは、「学習者の内側に、どのようにして言語を使う力は宿るのか」というものです。

本書が、その問いと向き合う人々にとって、思考の足場となれば幸いです。