「読み方を教える」という発想は、日本の英語教育の中でどれだけ定着しているでしょうか。単語を教え、文法を教え、長文を読ませる。しかし「どうやって読むか」、つまり読解の方略そのものを明示的に指導する場面は、意外と少ないのではないでしょうか。Deborah Yapp、Rick de Graaff、Huub van den Bergh の3氏による論文”Effects of reading strategy instruction in English as a second language on students’ academic reading comprehension”(2023年、Language Teaching Research誌に掲載、オンライン早期公開は2021年)は、801名という大規模な参加者を対象に、読解方略の明示的指導が本当に効果を持つのかを、厳密な研究デザインで検証した意欲的な研究です。著者らはオランダのUtrecht Universityに所属しており、Yapp氏は自身がこの介入プログラムの開発と実施に深く関わった実践者でもあります。
なぜオランダで、なぜ英語の読解が問題になるのか
日本の読者にとって少し意外に感じられるかもしれませんが、この研究の舞台はオランダの高等専門学校(polytechnic、日本で言えば専門学校や高等専門学校に近い位置づけの高等教育機関)です。オランダをはじめとする北欧諸国は、英語を第二言語とする授業や教材の割合が世界でも特に高い地域として知られています(Kuteeva & Airey, 2014)。教科書や講義資料が英語で書かれることが当たり前になりつつある中で、英語を母語としない学生たちは、専門的で圧縮された文体で書かれた学術的英文を、限られた時間の中で正確に理解しなければならないという重い負担を強いられています。
著者らが強調するのは、母語(L1)で身につけた読解方略が、そのまま第二言語(L2)の読解に自動的に転移するわけではないという点です。これはBaddeley, Eysenck, and Anderson(2009)やVan Gelderen et al.(2007)といった先行研究でも指摘されてきた知見であり、だからこそL2の読解方略を明示的に指導する必要があるという理論的な立場がこの研究の土台になっています。さらに著者らは、L1の読解指導プログラムは初等・中等教育段階では広く実施されている一方、高等教育段階でのL2読解方略の指導に関する研究は驚くほど少ないという研究上の空白を指摘しています。この空白を埋めようとする試みが、本研究の出発点です。
