英語の授業で「正しい英語」とは何かと問われたら、多くの日本人はまずアメリカ英語かイギリス英語を思い浮かべるのではないでしょうか。私自身、中学校の英語の授業でネイティブスピーカーの発音を繰り返し真似させられた記憶があります。発音記号を必死に覚え、リンキングやリダクションを練習し、「なるべくアメリカ人らしく」話すことが目標になっていました。しかし世界中で使われている英語は、決してアメリカ英語やイギリス英語だけではありません。インドの英語、シンガポールの英語、ナイジェリアの英語―これらもまた立派な英語の変種であり、それぞれの地域で独自の文法や語彙、発音の体系を持っています。この現実を英語教育の中でどう扱うべきかという問いに正面から向き合ったのが、Claudia AndreaniとJim McKinleyによる論文”Global Englishes teaching in secondary schools in Italy”です。本論文は2025年にELT Journal第79巻3号(452-463頁)に掲載されました。

著者と研究の背景―なぜこの研究が必要だったのか

Claudia Andreaniはオックスフォード大学で応用言語学の修士号を取得し、イタリアの小学校で長年英語を教えた経験を持つ研究者です。現在はロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の博士課程に在籍しています。共著者のJim McKinleyはUCLの応用言語学教授で、イギリス、日本、オーストラリア、ウガンダなど世界各地の高等教育機関で教鞭を執ってきた経歴を持ち、応用言語学の専門誌Systemの編集長も務めています。この組み合わせ―現場経験豊富な実践者と、国際的な視野を持つ理論家―が本論文の説得力を支えていると感じます。

研究の背景には、World Englishes(世界諸英語)論とEnglish as a Lingua Franca(ELF、共通語としての英語)論という二つの学術的潮流があります。従来の英語教育研究は、Seidlhoferが指摘するところの「コード固定化」―つまりアメリカ英語やイギリス英語を制度化された規範として特権化する姿勢―に支配されてきました。しかしGalloway and Rose(2015)が提唱したGlobal Englishes(GE)というパラダイムは、英語をもはや単一の実体としてではなく、グローバル化に伴って多様化した言語現象として捉え直そうとするものです。イタリアの教育省は小学校1年から英語を必修科目とし、中等教育修了時にはB2レベルの到達を求めていますが、Vettorel and Lopriore(2013)というイタリアの応用言語学者たちは、実際の教室では依然としてネイティブスピーカー規範が支配的であると指摘してきました。教員養成課程ではGE志向の授業が導入されつつある一方、10代の生徒を対象にこうした教育実践の効果を検証した研究はほとんど存在しませんでした。この空白を埋めようとしたのが本研究です。