英語のライティング課題を出すたびに、生徒の顔が曇るのを見たことがある教員は少なくないはずです。特に「レポートを書きなさい」という指示は、書き方そのものよりも先に、評価される恐怖を呼び起こします。この論文は、その恐怖にどう向き合うかを真正面から扱った実証研究です。著者のEmily WardはLancaster Universityに所属する研究者であり、同時に2013年からアメリカ西海岸の私立進学校Good Shepherd High School(仮名、GSHS)で英語を教えてきた現職教員でもあります。研究者としての目と教育現場の当事者としての目を併せ持つ立場から書かれているという点が、この論文の説得力の土台になっています。

なぜ「契約」なのか―先行研究と問題意識

Wardが取り組んだのは「契約評価(contract grading)」と呼ばれる仕組みです。これは、教員があらかじめ「Aを取るにはこれをやりなさい、Bならここまでで十分です」という達成基準を明示し、生徒自身にどの成果を目指すか選ばせるという評価方法です。従来の採点基準表(ルーブリック)による評価が、しばしば教員の主観的判断に委ねられ、生徒からすると「何が正解かよく分からないまま出す」という状態を生みがちであるのに対し、契約評価は「これをやればこの成績」という取引条件を先に示す点が異なります。

契約評価自体は目新しい発想ではありません。Smith and Lerch(1972)やCallahan(1979)など1970年代の研究にすでにその原型があり、近年ではAsao B. Inoueが2019年に著した労働に基づく評価契約の理論書―Labor-Based Grading Contracts―が大きな影響を与えています。ただしWardが指摘するように、これまでの実証研究のほとんどは大学生を対象にしたものであり、進学圧力の強い高校生、しかも学年もコースも多様な集団を対象にした研究はほとんど存在しませんでした。高校生は大学生以上に評価への恐怖にさらされやすく、しかも脳の発達がまだ途上にあるため、ストレスの影響を強く受けるとされています。Wardはこの空白を埋めるべく、2020年1月に自校で全学年・全コースが一斉に契約評価を導入するという好機を捉え、本研究を実施しました。ちなみにこの研究は単発ではなく、成績優秀とは言い難い12年生を対象にした予備的研究(Ward, 2021)の延長線上に位置づけられており、著者が長年温めてきたテーマであることがうかがえます。