英語の授業中に生徒が思わず日本語で発言してしまったとき、教員としてどう反応すべきか迷ったことはないでしょうか。「英語だけで話しなさい」と注意すべきか、それとも日本語での発言を受け止めたうえで英語につなげていくべきか。私自身、英語教育に関わる知人からこうした葛藤を何度も聞かされてきました。この問いに理論的な基盤を与えてくれるのが「トランスランゲージング」という概念です。今回取り上げるMarina Prilutskaya氏による論文は、このトランスランゲージングに関する実証研究を網羅的に整理した体系的レビューであり、教育現場が抱くこの種の迷いに、研究の現在地を示すことで一つの見取り図を与えてくれます。

この論文は”Examining Pedagogical Translanguaging: A Systematic Review of the Literature”というタイトルで、2021年に Languages 誌に掲載されました(2023年に図表の誤りに関する訂正が公開されています)。著者のMarina Prilutskaya氏は、ノルウェーのノール大学教育・芸術学部に所属する研究者です。

トランスランゲージングとは何か、そしてなぜこの研究が求められたのか

トランスランゲージングという用語は、もともとウェールズの教育者Cen Williamsによって1994年と1996年に、二言語教育の文脈で考案された概念です。Williamsにとってこの語は、教師が意図的に計画し、授業の中で二つの言語を目的的に併用させる教育実践を指すものでした。その後、García(2012)らの研究によって、この概念は多言語主義研究における包括的な用語として広く定着し、個人が持つ言語資源全体を、社会的・政治的に定義された言語の境界にとらわれず活用するという、より広い意味を持つようになりました。

しかし、著者が指摘するように、ここには重要な区別があります。教室で教師が計画的に導入する「教育的トランスランゲージング」と、教室の内外で自然発生的に起こる「自発的トランスランゲージング」とは、本来別のものとして扱われるべきだというのです。Creese and Blackledge(2010)やCanagarajah(2011)がすでに指摘していたように、理論的な文献は爆発的に増加している一方で、実際に教室でどう応用すればよいのかを裏付ける実証研究は、その増加のペースに追いついていませんでした。この理論と実践のギャップこそが、本研究が取り組んだ核心的な課題です。著者はさらに、この分野における最も直近の先行レビューであるPoza(2017)の研究が、1996年から2014年に発表された53本の論文を対象としたものであったことを指摘し、それ以降の研究動向を踏まえた、より新しく、より広範なレビューの必要性を訴えています。