英作文の授業というと、多くの日本の英語教員は静かな教室で生徒がひとりで机に向かい、鉛筆を握りしめながら唸っている光景を思い浮かべるのではないでしょうか。私自身、大学の英作文の授業をしていたとき、生徒たちがまっさらな答案用紙を前にして固まってしまう場面を何度も目にしました。書く前の段階で、そもそも何を書けばよいのか、どう組み立てればよいのか、頭の中が真っ白になってしまう。そうした経験を持つ教員であれば、今回取り上げるLi and Zhangの論文が投げかける問いに、きっと強く共感するはずです。
この論文は、”Effects of structured small-group student talk as collaborative prewriting discussions on Chinese university EFL students’ individual writing: A quasi-experimental study”という題で、2021年に PLOS ONE 誌に掲載されました。著者はHui Helen Li氏(武漢理工大学外国語学院、およびオークランド大学教育・社会福祉学部)とLawrence Jun Zhang氏(オークランド大学教育・社会福祉学部)です。Zhang氏は第二言語習得やライティング研究の分野で国際的に著名な研究者であり、Li氏は中国国内の大学で実際に英語ライティングを教える教員研究者という立場から、この共同研究に取り組んでいます。現場の実務者と理論家が手を組んだ研究であることは、この論文の説得力を支える重要な背景です。
なぜこの研究が必要とされたのか
英作文の指導において「書く前に話し合う」ことがどれほど効果的かという問いは、決して新しいものではありません。むしろ長年にわたり研究者たちを悩ませてきた論争のひとつです。論文の文献レビューによれば、Shin(2018)は口頭でのプランニングを行ったグループが個別プランニングのグループより高いスコアを得たと報告した一方、McDonough, De Vleeschauwer, and Crawford(2018)はタイの大学で協働的プレライティング討論と協働作文、個人作文の三条件を比較したところ、有意差は見られなかったと報告しています。こうした矛盾する結果が積み重なっている状況を、著者たちは「一貫性のない知見」と表現し、この不整合を解消するために本研究を設計したと述べています。
さらに重要な点は、先行研究のほとんどが単発的な介入(いわゆるワンショット・トリートメント)にとどまっていたことです。Shiの研究では40分から60分の一回限りの介入で効果を測定していますが、これでは効果が本当に定着するのかどうかが分かりません。日本の学校現場に置き換えれば、一度だけペア活動をやらせて「効果があった」と結論づけるようなものです。実際の教育現場で知りたいのは、その効果が数週間後も残っているかどうかではないでしょうか。この論文が画期的なのは、事前テスト・事後テスト・遅延事後テストという三段階の測定を導入し、しかも5ラウンドにわたる繰り返しの介入を行った点にあります。
