英語のテストで高得点を取るとはどういうことでしょうか。多くの人は「アメリカ人やイギリス人のように話せること」だと考えるかもしれません。しかし、その前提そのものを問い直す論文があります。Mustapha Mourchid氏、Mohamed Bouaissane氏、Hind Brigui氏(いずれもモロッコのイブン・トファイル大学)、そしてMurad Hassan Sawalmeh氏(オマーンのドファール大学)による共著論文、”World Englishes Today Towards a Pluricentric Approach of Proficiency Testing” です。2023年8月に国際学術誌International Journal of Linguistics, Literature and Translation(IJLLT)に掲載されたこの論文は、実証データを伴う調査研究ではなく、理論的な立場を明確に打ち出す論説的な性格を持つ短い論文ですが、その主張は英語教育に携わる者にとって見過ごせない問いを投げかけています。

第一著者のMourchid氏はイブン・トファイル大学の博士課程に在籍する研究者で、2019年には「モロッコの高等教育におけるWorld Englishesパラダイムの導入」というタイトルの単著を出版しており、この分野を継続的に追ってきた人物です。共著者のBrigui氏は応用言語学とTEFL(外国語としての英語教育)の准教授であり、Sawalmeh氏は翻訳研究と言語学を専門とする研究者です。地理的にはモロッコとオマーンという、英語が公用語ではない「拡大円(Expanding Circle)」に属する国の研究者たちが、まさに自分たちの立場から英語教育のあり方を問い直しているという点に、この論文の説得力の源があります。

Kachruの三つの輪という古典的な枠組み

この論文の理論的な土台となっているのは、インド出身の言語学者Braj Kachruが1992年に提唱した「三つの同心円モデル」です。Kachruは、英語が世界に広がる様相を、内円(Inner Circle、英語が母語として話される米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなど)、外円(Outer Circle、かつて植民地支配を受け英語が第二言語として制度化されているインド・ナイジェリア・シンガポールなど)、そして拡大円(Expanding Circle、英語が外国語として国際的な目的のために使われるモロッコ・中国・日本など)という三つの層に分けて説明しました。この分類は英語教育学の教科書に必ずと言っていいほど登場する古典的な枠組みですが、本論文はこれを単に紹介するだけでなく、Jenkins(2009)の批判―内円は「規範を提供する」円、外円は「規範を発展させつつある」円、そして拡大円は「規範に依存する」円とみなされがちだという指摘―を通じて、その序列的な構造そのものに疑問を投げかけています。

私が英語を学び始めた頃、教科書に載っている英語はほぼ例外なくアメリカ英語かイギリス英語でした。しかし今、職場でもニュースでも、シンガポール英語やインド英語、あるいはノンネイティブ同士が使う英語に触れる機会は格段に増えています。この論文が指摘するのは、まさにこうした肌感覚を持つ人なら誰もが薄々感じている違和感―「なぜ試験ではいまだにアメリカ英語かイギリス英語だけが正解とされるのか」という疑問に、理論的な裏付けを与えるものです。