英語の試験と聞くと、多くの日本人はTOEICやTOEFL、あるいは英検を思い浮かべるでしょう。これらはいずれもアメリカやイギリスといった英語母語話者の国(Kachruの用語でいう「内円」)で開発された国際標準テストです。しかし世界には、内円の国々が作った試験ではなく、非英語圏の国が自国のために独自に開発した試験も数多く存在します。中国のCollege English Test(CET、大学英語試験)はその代表例です。この試験が「世界諸英語(World Englishes)」の考え方をどれだけ取り入れているのか、あるいは取り入れていないのかを緻密に分析したのが、Qiusi Zhangによる論文”Impacts of World Englishes on local standardized language proficiency testing in the Expanding Circle: A study on the College English Test (CET) in China”です。本論文は2022年にEnglish Today第38巻4号(254-263頁)に掲載され、オンライン上では2021年に先行公開されています。
著者の背景と研究が生まれた経緯
Qiusi Zhangはアメリカ・パデュー大学の第二言語習得研究科の博士課程学生で、同大学のOral English Proficiency Program(口頭英語能力プログラム)で試験運営の補助やチューターを務めています。中国で4年間英語を教えた経験や、パデュー大学で1年生向けの作文の授業を担当した経験を持ち、世界諸英語、第二言語のテスト・評価、第二言語習得、コーパス言語学を専門としています。論文の謝辞には、本研究がMargie Berns教授の「World Englishes」講義の期末課題として始まったことが記されています。Bernsは世界諸英語研究の分野で長年活躍してきた研究者であり、その指導のもとで発展した学生の研究が国際的な査読誌に掲載されるというのは、まさに大学院教育の一つの理想形と言えるかもしれません。
研究の背景にあるのは、Braj Kachruが1985年に提唱した「三つの同心円モデル」です。英語を母語とする「内円(Inner Circle)」―アメリカ、イギリス、オーストラリアなど―、かつて植民地支配のもとで英語が第二言語として定着した「外円(Outer Circle)」―インド、フィリピン、シンガポールなど―、そして英語を外国語として学ぶ「拡大円(Expanding Circle)」―中国、インドネシア、タイなど―という三区分です。世界諸英語研究はこれまで、内円で開発された大規模国際試験(IELTSやTOEFLなど)や、外円における現地語標準試験について盛んに議論してきました。しかし拡大円―実は世界で最も多くの英語学習者を抱える地域―における現地開発の試験については、研究がほとんど進んでいませんでした。Lowenberg(2002)がこの空白を指摘してから約20年、ようやくこの空白を実証的に埋めようとしたのが本研究です。
