大学の教員養成課程で「これからの英語教育はネイティブ英語だけを基準にすべきではない」という理念を教わったとしても、いざ自分が教壇に立ってみると、生徒も保護者も学校の管理職も、結局は「アメリカ英語やイギリス英語らしい発音」を求めてきます。この理想と現実のギャップに悩んだ経験を持つ英語教員は、日本にも決して少なくないはずです。私自身、ある中学校の校内研修に参加した際、「多様な英語(World Englishes)」について紹介したところ、真っ先に返ってきた反応は「でも高校入試のリスニングはアメリカ英語かイギリス英語ですよね」という、ある意味で非常に率直な指摘でした。理念の正しさと、現場を取り巻く制度的な現実との間には、常に埋めがたい距離があります。

Nicola GallowayとTakuya Numajiriの共著論文”Global Englishes Language Teaching: Bottom-up Curriculum Implementation”は、まさにこの溝を正面から見据えた研究です。Gallowayはエディンバラ大学(スコットランド)でTESOLを教える講師であり、第二言語教育カリキュラムとGlobal Englishes for Language Teaching(GELT)の科目を担当しています。彼女の研究関心は、英語の世界的拡大が教育実践に及ぼす影響と、高等教育における英語媒体授業(EMI)に集中しています。共著者のNumajiriもエディンバラ大学に所属する研究者です。本論文はTESOL Quarterly誌54巻1号(2020年3月、オンライン先行公開は2019年)に掲載されました。

なぜ「態度」だけでなく「実装可能性」を問う必要があったのか

英語をリンガフランカ(共通語)として捉える研究、いわゆるELF(English as a Lingua Franca)研究や、World Englishes研究の蓄積は、この20年で飛躍的に増えてきました。これらの研究に通底するのは、英語はもはや特定のネイティブ話者国の所有物ではなく、世界中の多様な話者が創造的に使いこなす共有財産だという視点です。Galloway自身が過去に提唱してきたGELT(Global Englishes Language Teaching)という枠組みは、こうした研究群を実際の英語教育カリキュラムに落とし込むための六つの提案―World EnglishesやELFへの露出を増やす、多言語主義への敬意を重視する、Global Englishesへの意識を高める、ELF方略への意識を高める、多様な文化とアイデンティティへの敬意を重視する、そして教員採用の慣行を変える―として整理されてきました。

しかし、これらの提案が理論として洗練される一方で、実際にそれを現場の教員たちがどう受け止め、どこに実装の壁を感じるのかについては、驚くほど研究が手薄だったとGallowayらは指摘します。日本での先行事例としては、Giri and Foo(2014)が一人の非母語話者教員を対象に行った研究があり、そこでは標準英語規範への強い愛着ゆえの抵抗が確認されています。しかし、こうした個別の事例研究だけでは、カリキュラム改革という組織的なプロセス全体を見渡すには不十分です。イノベーション研究の古典であるRogers(2003)の「相対的優位性」や「適合性」といった概念、そしてFullan(2007)が示した「開始・実施・制度化」という三段階モデルを援用しながら、GELTという理念が実際の教室に根づくための条件を探ろうとしたのが、本研究の出発点です。