「テストのために勉強する」という行為が、生徒のやる気や自律性をどう変えるのか。この問いに正面から挑んだのが、Karim Sadeghi氏、Aylin Ballıdağ氏、Enisa Mede氏によるトルコ発の研究、”The Washback Effect of TOEFL iBT and a Local English Proficiency Exam on Students’ Motivation, Autonomy and Language Learning Strategies” です。2021年にHeliyon誌に掲載されたこの論文は、イスタンブールの大学に付属する英語予備教育機関を舞台に、世界的に権威のあるTOEFL iBTと、大学が独自に作成した学内英語能力試験という、性質の異なる二つの高スティクス試験(high-stakes tests)が学習者に及ぼす影響を比較しています。

著者のSadeghi氏はバフチェシェヒル大学の英語教育学科に所属し、言語テストのウォッシュバック研究を専門としてきた研究者です。共著者のBallıdağ氏はイスタンブール工科大学の英語予備教育機関に勤務しており、実際に学生と向き合う現場の視点を持ち込んでいます。この組み合わせが、理論と実務の橋渡しを試みる本論文の性格をよく表しています。

ウォッシュバックという考え方はどこから来たのか

「ウォッシュバック」という言葉は、日本語ではあまり馴染みがないかもしれませんが、言語テスト研究の世界では古くから議論されてきた概念です。Alderson and Wall(1992)が提唱した仮説によれば、「教師や学習者は、テストがあるがゆえに、そうでなければしないようなことをする」とされます。つまり試験の存在そのものが、教え方や学び方を変えてしまうということです。この論文はまず、Alderson and Wall(1993)が示した14の仮説や、Hughes(1993)が提示した「参加者・プロセス・成果物」という三分法を丁寧に整理し、ウォッシュバックが単純に「良いテストか悪いテストか」で決まるものではないことを強調しています。

背景として重要なのは、この分野で「TOEFL iBTのウォッシュバック研究がまだ少ない」という指摘です。TOEFL iBTのような国際的な試験に関する先行研究(Alderson and Hamp-Lyons, 1996; Barnes, 2010; Reynolds, 2010)はいくつかあるものの、それらは学習者、教師、プログラムのいずれか一つに焦点を当てたものが多く、しかも「学内で独自に作られたローカルな試験」と正面から比較した研究はほとんどありませんでした。トルコでは学内の英語能力試験に関するウォッシュバック研究(Kılıçkaya, 2016; Sayın and Aslan, 2016など)が蓄積されている一方、国際試験と学内試験を同じ学生集団の中で比較するという発想自体が新しいのです。

私は個人的に、大学受験のための模試と、TOEICのような外部試験を同時に受けていた経験を思い出しました。同じ「英語力を測る試験」でも、模試には「志望校に受かるため」という切実さがあり、外部試験には「これさえ取れば就活で有利」という別種の実利がありました。動機づけの中身が違えば、勉強の仕方も変わってくる。そうした素朴な実感を、体系的なデータで検証しようとしたのがこの研究だと言えます。