英語の授業で生徒が間違った発話をしたとき、先生はすぐに直すべきでしょうか。それとも、黙って最後まで言わせてあげるべきでしょうか。この一見ささやかな問いに、真正面から向き合った研究があります。Xuan Van Ha氏(ハティン大学)、Loc Tan Nguyen氏、Bui Phu Hung氏(ホーチミン市経済大学)による “Oral Corrective Feedback in English as a Foreign Language Classrooms A Teaching and Learning Perspective” です。2021年に学術誌Heliyonに掲載されたこの論文は、ベトナムの中等教育現場における口頭訂正フィードバック(oral corrective feedback、以下OCF)について、教師と生徒の両方の視点から光を当てた、地味ながらも実務に直結する内容を持っています。
筆者のHa氏は、ベトナムの英語教育を対象にした実証研究を継続的に発表してきた研究者で、本論文でもHa and Nguyen(2021)やHa and Murray(2020, 2021)といった自身の先行研究を引きながら議論を組み立てています。ベトナムという文脈を選んだ理由は単純な地の利だけではありません。ベトナムの英語教育は試験偏重であることが知られており、こうした「テスト駆動型」の教室で教師と生徒がフィードバックについてどう考えているかを調べることは、テスト文化が強い国々―もちろん日本もその一つです―にとって示唆に富む比較対象になるからです。
なぜ「教師と生徒のズレ」を調べる必要があったのか
この研究の背景には、第二言語習得研究における長年の蓄積があります。Borg(2011)による信念(beliefs)の定義―「個人が真実だと考える命題であり、しばしば暗黙的で、強い評価的・感情的要素を持ち、行動の基盤となり、変化に抵抗する」というもの―が引用されており、教師と生徒の信念がしばしば一致しないという先行知見(Ellis, 2008; Brown, 2009)が下敷きになっています。たとえばBrown(2009)の研究では、教師はコミュニカティブな指導を好むのに対し、生徒は文法中心の学習を望むという食い違いが報告されていました。こうしたミスマッチは、教育の効果を損なうだけでなく、教室内の人間関係にも影を落としかねません。
面白いのは、口頭訂正フィードバックという極めて具体的なテーマに絞り込んだ点です。フィードバックの研究自体はEllis(2009)やLyster et al.(2013)などによって蓄積されてきましたが、教師と生徒の信念を「同じ研究の中で」突き合わせた研究は少なかったといいます。私自身、教育実習生だった頃を思い出すのですが、指導教員から「間違いは全部その場で直すな」と言われて戸惑った経験があります。生徒からすれば「今すぐ直してほしい」のに、教師の側には「今は待つべきだ」という別の理屈がある。この論文はまさにその温度差を、データという形で可視化してくれています。
