学生時代、同じ答案を別の先生に見せたら評価が変わった、という経験はないでしょうか。あるいは教員として、隣の同僚が自分とはまったく違う基準で成績をつけているのを見て、内心もやもやしたことはないでしょうか。この「採点者間の不一致」という問題は、教育評価の世界では100年以上前から指摘され続けてきた、根深くて厄介な現象です。この論文は、その厄介な問題に正面から挑み、「では、どうすれば少しでも一致率を上げられるのか」を実験的に検証した研究です。

著者はAnders Jönsson、Andreia Balan、Eva Hartellの3名です。Jönssonはスウェーデンのクリスティアンスタード大学教育学部の教授で、教室での評価、とりわけルーブリック(評価基準表)研究の第一人者として知られています。Balanはヘルシンボリ市の教育行政に携わる研究者で、形成的評価と数学教育を専門としています。HartellはKTH王立工科大学に所属し、STEM分野の教員経験を持つ評価研究者です。この論文は2021年に Assessment in Education: Principles, Policy & Practice 誌に掲載されました。

成績が人生を左右するという重み

この研究が行われた背景には、スウェーデンにおける成績の重みという切実な事情があります。スウェーデンでは、義務教育修了後の進路選択(高校進学)や大学進学の選抜において、成績が唯一、あるいは最も重要な基準として用いられています。ところが、教員による採点の信頼性には以前から疑問が投げかけられており、スウェーデン国家教育庁の2019年の報告でも、教員がつけた成績と全国学力テストの結果との間に大きな乖離があることが示されています。つまり、生徒の一生を左右しかねない選抜が、信頼性に疑問符のつく仕組みの上に成り立っているのです。これは決して他人事ではなく、内申点や調査書が進学に大きく影響する日本の教育制度とも重なる問題です。

政府はこれまで、全国テストの結果を成績に「考慮する」ことを法律で義務付けるなどの対策を講じてきましたが、著者たちによれば、この措置は目立った効果を上げていません。むしろテストの結果に成績を近づけすぎることには別のリスクもあります。高スループットテストへの依存が強まると、カリキュラムが「テストに出る内容」に狭められてしまう、いわゆる「カリキュラムの窄まり」が起きることが先行研究(Au, 2007)で指摘されています。そこで著者たちは、テストへの依存を強めるのではない別の道、すなわち「教員が生徒の多様な情報をどう統合して成績に落とし込むか、その手順そのものを工夫する」というアプローチを模索します。