はじめに―採点の山を前にしたある夜のこと

英語の授業を担当したことのある方なら、おそらく一度は経験があるはずです。学期末に積み上がったライティング課題の束を前にして、「この一枚一枚に丁寧なフィードバックを書いていたら、いったいいつ終わるのだろう」と途方に暮れる夜が。コメントを書けば書くほど、「果たして学生はこれをきちんと読んでいるのだろうか」という疑問も頭をもたげてきます。フィードバックの質を上げたい、でも時間は限られている。この矛盾は、英語教育に関わる多くの人が長年抱えてきた構造的な問題です。

そこへ近年、颯爽と登場したのが生成AIによる自動フィードバックです。ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の急速な普及を受けて、「AIに添削させればいいのではないか」という声は、研究者のあいだだけでなく、現場の教師や教育行政の場でも聞かれるようになりました。しかし、「使えそうだ」という感触と、「実際に効果がある」という実証的な証拠のあいだには、まだ大きな隔たりがあります。

本稿で取り上げるのは、香港中文大学の英語教育ユニットに所属するSumie Tsz Sum Chanと、ランカスター大学教育研究学部およびポリテクニク大学専業進修学院のNoble Po Kan Lo、そして香港中文大学英語教育ユニットのAlan Man Him Wongによる共同研究、”Enhancing University Level English Proficiency with Generative AI: Empirical Insights into Automated Feedback and Learning Outcomes”(2024年、Contemporary Educational Technology 掲載)です。この論文は、まさに上記の問いに正面から向き合い、918名という英語教育研究としてはきわめて大規模なサンプルを用いて、AI生成フィードバックの効果を多角的に検証したものです。特集テーマである「生成AIと共創するアカデミック・ライティング―英語教育における実践、評価、そして倫理」の文脈において、本研究は実証面の核となりうる重要な一石といえます。