はじめに―大人数クラスという万年課題

英語教育に携わる人であれば、一度は経験したことがあるはずです。採点の締め切りが迫る中、学生のライティング課題が山のように積み上がり、一人ひとりに丁寧なフィードバックを返すことが物理的に不可能に近い、あの焦燥感です。大学の英語クラスが30人、40人、あるいはそれ以上になると、形成的フィードバック―つまり成績をつけるためではなく学びを深めるための継続的な助言―を全員に提供することはほとんど絵に描いた餅になってしまいます。これは日本に限った話ではなく、グローバル・サウスと呼ばれる途上国・新興国ではさらに深刻で、50人、100人を超えるクラスが珍しくありません。

本稿で取り上げる論文、Santosh Mahapatraによる “Impact of ChatGPT on ESL Students’ Academic Writing Skills: A Mixed Methods Intervention Study”(Smart Learning Environments, 2024年)は、まさにその問題に正面から向き合った研究です。インドの理系大学という具体的な現場で、ChatGPTを形成的フィードバックツールとして授業に組み込み、学生のライティング力に何が起きたかを実証的に検証しています。本研究が掲載されたSmart Learning EnvironmentsはSpringer Nature系列の教育工学専門誌で、テクノロジーと学習の交差点を扱う査読付きオープンアクセス誌です。著者のMahapatraはBITS Pilani Hyderabad Campusの准教授で、学習テクノロジー、教師教育、教育言語政策を専門とし、インド・バングラデシュ・ネパールのESL教師のオンライン形成的評価実践を比較した研究など、この地域の英語教育事情に精通した研究者です。

論文自体は2023年10月に投稿され、2024年2月に受理・公開されています。ChatGPTが世に登場したのが2022年末ですから、その翌年には研究が完成し査読を通過したことになります。生成AI研究の速度感を象徴するような経緯です。