はじめに―授業で見えてきた「道具の格差」
英語の授業を担当していると、学生たちが提出するレポートの質が年々変化していることに気づく教員は少なくないはずです。文法ミスは減ったのに、なぜか文章全体のロジックが散漫になっている。あるいは、コメントを返すと「ChatGPTにそう言われたので直しました」という返事が来る。日本の大学の英語教育現場でも、生成AI(以下、GenAI)をめぐるこうした戸惑いは日常的な風景になりつつあります。
そのような時代状況の中、香港教育大学のLucas Kohnkeが2024年に発表した “Exploring EAP Students’ Perceptions of GenAI and Traditional Grammar-Checking Tools for Language Learning” は、学習者自身がGenAIと従来型ツールをどう見ているのかを丁寧に掘り下げた、現場感覚に富む質的研究です。掲載誌はComputers and Education: Artificial Intelligence(2024年第7巻)であり、オープンアクセスで公開されています。教育工学と英語教育学の両方の読者を意識して書かれたこの論文は、理論と実践のバランスをうまく保ちながら、GenAI時代のEAP(English for Academic Purposes、学術英語)教育が直面するいくつかの核心的問題を照射しています。
Kohnkeはこれまでも、ChatGPTの言語教育への応用(Kohnke, Moorhouse, & Zou, 2023)やGenAIに対する大学教員の準備態勢(Kohnke, Moorhouse, & Zou, 2023)について論じており、英語教育×GenAIという交差点に継続的に取り組んできた研究者です。本論文はその流れの中に位置づけられる一作であり、学習者の声という、これまで十分に拾われてこなかった視点を前景化しようとした点に独自性があります。
