Yijen Wang氏が2024年にSystem誌に発表した”Cognitive and sociocultural dynamics of self-regulated use of machine translation and generative AI tools in academic EFL writing”は、タイトルだけ見ると少々とっつきにくい印象を受けるかもしれません。しかし中身は、日本の大学で英語を教えている方なら「あ、これはうちのクラスの話だ」と思わず膝を打つような、きわめて身近な問いに向き合った研究です。学習者はChatGPTやGoogle Translateをどう使っているのか。使い方は訓練によって変わるのか。そして、AIに頼りすぎることへの不安は杞憂なのか、それとも正当な懸念なのか。Wang氏はこれらの問いを、認知理論と社会文化理論という二本の柱を立てながら、混合研究法によって丁寧に解きほぐそうとしています。
Wang氏は早稲田大学に所属する研究者で、テクノロジーと第二言語ライティング教育の交差点に長く取り組んできた方です。共著者のStockwell氏(Graham Stockwell、早稲田大学)とともに機械翻訳の語彙学習への活用を論じた研究なども知られており、本論文はその文脈に位置する一作と言えます。発表誌のSystemは応用言語学・言語教育の分野でもっとも権威ある国際誌のひとつで、掲載されること自体が研究の質を一定程度保証しています。
なぜ今、この問いが重要なのか
少し立ち止まって考えてみましょう。ここ数年で、英語の授業風景は大きく変わりました。以前は「辞書を引きなさい」と言えばそれで済んだ語彙学習が、今やスマートフォン一台でGoogle Translateを開けば瞬時に解決してしまいます。さらにChatGPTの登場以降は、英作文の課題を丸ごと生成させることすら技術的には可能になりました。教員としては「これは困った」と頭を抱えたくなる状況ですが、Wang氏はそこで立ち止まって別の問いを立てます。「禁止するのではなく、適切に使わせるとしたら、何が起きるのか」という問いです。
この視点の転換は、特集テーマである「生成AIと共創するアカデミック・ライティング」の精神とも重なります。AIを敵視するのでも盲目的に礼賛するのでもなく、教育的文脈の中でどう位置づけるかを問う姿勢は、現在の英語教育界が最も必要としている態度のひとつではないでしょうか。
