筆者の一人であるJining Hanは、中国の重慶市にある重慶師範大学(Southwest University)の教育学部に所属する教育工学の准教授です。第二言語習得と教育工学を専門とし、学習管理システム(LMS)を活用したフィードバック研究やコンピューター支援語学学習(CALL)を長年研究してきました。もう一人の著者、Mimi Liはテキサス農工大学コマース校(Texas A&M University-Commerce)の応用言語学准教授で、協働ライティング、デジタル・マルチモーダル作文、AIと言語教育の交差点を研究フィールドとしています。この二人が組んだのは自然なことで、教室実践の厚みと言語教育理論の精緻さを両輪とした研究チームとして機能しています。本論文”Exploring ChatGPT-supported teacher feedback in the EFL context”は、学術誌Systemの2024年第126号に掲載されたもので、中国の大学英語教育(EFL)という文脈でChatGPTをどのように教師フィードバックに組み込むかを、実際の教室データを用いて検証した研究です。
本論文が特集テーマ「生成AIと共創するアカデミック・ライティング―英語教育における実践、評価、そして倫理」に深く関わるのは、まさにこの「共創」という言葉が示す問いを正面から扱っているからです。AIが教師を代替するのではなく、教師がAIの出力を読み解き、取捨選択し、学習者に届けるという共同作業のかたちを具体的に提示した点において、本論文は今後の議論の出発点として極めて示唆的です。
大クラスという万国共通の悩みから出発する
日本の大学や高校で英語を教えたことのある方なら、一度は経験したことがあるはずです。30人、40人、あるいはそれ以上の学生のライティング課題を抱えて、週末が消えていく感覚を。そして翌週返却したとき、「先生のコメントを読みましたか」と聞いて、半数以上が読んでいないことを知ったときの、あの虚しさを。この問題は日本だけでなく、中国ではさらに深刻です。著者らの調査によれば、中国の大学でEFL(English as a Foreign Language)を担当する教員は、しばしば1クラスに100名近い学生を抱えます(Yang et al., 2006)。一人ひとりに丁寧なフィードバックを書くことが「ほぼ不可能」という表現が論文中に出てきますが、これは誇張ではありません。
著者らはこの問題に対し、「ChatGPT支援型教師フィードバック(ChatGPT-supported teacher feedback)」という実践を提案します。手順はシンプルです。教師が学生の作文をChatGPTに入力し、2種類の指示(プロンプト)を与えます。一つ目は「文構造、語選択、動詞の時制、句読点など15種類の誤りをすべて指摘してほしい」という誤り訂正フィードバック用のプロンプト、二つ目は「この文章のレトリック(修辞的側面)にフィードバックをしてほしい」というホリスティック・フィードバック用のプロンプトです。ChatGPTが返してきた内容を教師がチェックし、修正・補足して、最終的に学生に届ける、というながれです。つまりChatGPTは「下書き係」であり、判断と責任は最終的に教師に残る設計です。
