「先生、これってChatGPTが書いたんじゃないですか」。そんな声が職員室で聞かれるようになって久しい今日この頃、英語のライティング指導に携わる人々の多くが、採点しながら何とも言えない居心地の悪さを感じた経験があるのではないでしょうか。文法は完璧、構成も申し分ない、でも何かが引っかかる。そのざわつきの正体を、理論的に解きほぐそうとした論文が今回取り上げるKalantzis & Cope(2025)の “Literacy in the Time of Artificial Intelligence”(Reading Research Quarterly, 60, e591)です。

著者について―マルチリテラシーズ理論の提唱者たち

まず著者について簡単にご紹介しておきましょう。Mary KalantzisとBill Copeは、ともにアメリカ・イリノイ大学アーバナシャンペーン校教育学部の教授であり、「マルチリテラシーズ(multiliteracies)」という概念の生みの親として国際的に知られています。1996年にNew London Groupの一員として発表した論文 “A Pedagogy of Multiliteracies: Designing Social Futures”(Harvard Educational Review, 66(1), 60-92)は、その後の読み書き教育の議論に計り知れない影響を与えました。テキストだけでなく、画像・音声・身体・空間など多様な意味形成様式(modes)をリテラシーの対象として捉え直すという視点は、デジタル化が進む現代においていっそう説得力を持っています。

両者はオーストラリア出身で、移民・先住民コミュニティ・労働者階級の子どもたちへのリテラシー教育に長年携わってきた実践的な研究者でもあります。本論文はその蓄積のうえに、生成AIという新たな事態への応答として書かれており、単なる技術論ではなく、社会的公正(education justice)の観点が全体に通底しています。