親が赤ちゃんに「あー」と声をかけ、赤ちゃんが「うー」と返す。そんな何気ないやりとりが、実は子どもの言語発達において極めて重要な役割を果たしているのではないか。オーストラリア国立大学のSeamus DonnellyとEvan Kiddは、この素朴な疑問に科学的な答えを出そうと試みました。彼らが2021年に発表した論文”The longitudinal relationship between conversational turn-taking and vocabulary growth in early language development”は、会話のキャッチボールと語彙の成長が互いに影響し合う関係にあることを、大規模な縦断データから実証したものです。
言葉は社会の中で育つ
DonnellyとKiddが取り組んだのは、言語発達における古くて新しい問題です。子どもはどのようにして言葉を獲得するのか。この問いに対して、研究者たちは長年、さまざまな角度から答えを探してきました。1970年代から80年代にかけて、Jerome BrunerやLev Vygotsky、そして近年ではMichael Tomaselというった研究者たちが主張してきたのは、言語習得が単に言葉をたくさん聞けば自然に起こるプロセスではなく、社会的な相互作用の中で育まれるものだということです。
考えてみれば、私たち大人も新しい言語を学ぶとき、教科書を読むだけでは限界があります。実際に誰かと会話をし、相手の反応を見ながら言葉を使ってみて、初めてその言語が自分のものになっていきます。赤ちゃんにとっても同じことが言えるのではないか。むしろ、まだ言葉を持たない赤ちゃんにとっては、大人との相互作用がさらに重要な意味を持つはずです。
DonnellyとKiddが特に注目したのは、「会話のターンテイキング」という現象です。これは、会話において話し手と聞き手が交代していくプロセスのことで、人間のコミュニケーションに普遍的に見られる特徴です。たとえば、親が「おなかすいた?」と尋ね、赤ちゃんが「あー」と声を出し、親が「そうだね、ミルクの時間だね」と返す。このような応答の連鎖が、赤ちゃんの言語発達にどのような影響を与えているのでしょうか。
