認知予備力という考え方―脳の「貯金」を増やす試み

ネブラスカ大学のDouglas H. Schultzらによる本研究”Second language learning in older adults modulates Stroop task performance and brain activation”は、高齢期における第二言語学習が認知機能に与える影響を神経科学的手法で検証した意欲的な試みです。著者らは、60歳から80歳までの健康な単一言語話者41名を対象に、4ヶ月間のオンライン言語学習プログラムを実施し、介入の前後で機能的MRI(fMRI)を用いた脳活動測定とStroop課題によるパフォーマンス評価を行いました。

この研究の背景には、「認知予備力」という重要な概念があります。認知予備力とは、脳が加齢や病理的変化によるダメージに対して示す耐性のことで、いわば脳の「貯金」のようなものです。教育水準が高い人や、複雑な仕事に従事してきた人、読書や音楽などの知的活動を続けてきた人は、この貯金が多く、認知症の症状が出にくいとされています。近年、生涯にわたる二言語使用がこの認知予備力を高めることが注目されており、バイリンガルの高齢者は単一言語話者と比べて認知機能が保たれやすいという報告が増えています。

しかし、ここで重要な疑問が生じます。生涯バイリンガルであることが有益だとしても、すでに高齢期に入った人が新たに言語を学び始めることに意味はあるのでしょうか。本研究は、まさにこの点に焦点を当てています。