言語を学ぶのに頭の良さは必要か。この問いは、外国語学習に苦労した経験のある人なら誰もが一度は考えたことがあるでしょう。Barcelona在住のGisela Granenaは、スペインのUniversitat Oberta de Catalunyaで応用言語学を研究する研究者で、長年、第二言語習得における個人差の問題に取り組んできました。今回取り上げる論文”Predictions of cognitive individual differences in language acquisition: Commentary on Hulstijn (2024)”は、同分野の重鎮Jan Hulstijnが2024年に発表したBLC(Basic Language Cognition)理論の更新版に対する批判的検討です。
理論の核心―話すことと書くことは別物なのか
Hulstijnの理論は、人間の言語能力を二つに分けて考えます。一つは基本言語認知(BLC)と呼ばれる、日常会話での聞く・話す能力です。もう一つは拡張言語認知(ELC)と呼ばれる、読み書きの能力です。たとえるなら、友人との雑談や電話での会話がBLCで、ビジネス文書の作成や学術論文の読解がELCということになります。
この区分そのものは直感的に理解できるでしょう。実際、文字を読めなくても流暢に話せる人はいますし、逆に読解力は高いのに会話が苦手という人もいます。しかしHulstijnの主張の核心は、この二つの能力と認知的な個人差(記憶力や分析力などの知的能力の個人差)との関係にあります。彼は、認知的な個人差は読み書きの習得には影響するが、話し言葉の習得にはほとんど影響しないと予測しているのです。
この予測は、母語話者だけでなく、第二言語学習者にも当てはまるとされています。つまり、英語を母語としない日本人が英語を学ぶ場合でも、認知能力の高低はリーディングやライティングの上達には関係するが、リスニングやスピーキングの上達にはあまり関係しないということになります。
