研究の背景と問いの出発点

人工知能の急速な発展が教育現場に及ぼす影響について、世界中の研究者が注目している。なかでも大規模言語モデル(Large Language Models、以下LLM)、とりわけOpenAIが開発したChatGPTは、2022年末の一般公開以来、教育界に大きな議論を巻き起こしてきました。「学生がレポートをAIに書かせるのではないか」「思考力が退化するのではないか」という懸念の声が上がる一方で、「うまく使えば教育効果が高まるはずだ」という期待もある。この二項対立的な議論に、実証データで応えようとした論文が、本稿で取り上げるde la Puente, Torres, Blanco Troncoso, Hernández Meza, & Marquez Carrascal(2024)による研究です。

論文の舞台はコロンビアです。筆頭著者のMario de la Puenteはコロンビア北部の都市バランキージャにあるUniversidad Del Norte(デル・ノルテ大学)の政治学・国際関係学部に所属する研究者で、英語教育や教育工学とは少し異なるフィールドにいます。共著者のJose Torres、Ana Laura Blanco Troncoso、Jenny Xiomara Marquez CarrascalはUniversidad De Sucre(スクレ大学)、Yuraima Yuliza Hernández MezaはCorporación Universitaria del Caribe CECARに所属しており、コロンビアの複数の高等教育機関が連携して実施した研究です。発展途上国の文脈でAI教育ツールの有効性を検討するという視点は、先行研究の大半が先進国を舞台にしていたことを考えると、それだけでも独自の貢献があります。

研究の核心にある問いは、シンプルかつ鋭いものです。「ChatGPTをディベートセッションに組み込むことで、国際関係学を学ぶ学部生の批判的思考力と論証スキルは、伝統的なディベート方法と比較して向上するか」。この問いに答えるため、研究チームは95名の学部生を実験群(48名)と対照群(47名)にランダムに割り振り、1年間にわたる縦断的な実験デザインを採用しました。